備長炭について
最も有名な炭に備長炭があります。
備長炭はマスコミなどで最高級の炭と絶賛されることが多いので、炭の代名詞のような印象があるかも知れません。
備長炭の歴史と産地
「備長炭」の名は、通説では元禄年間(1688~1704年)備中屋長左衛門が発明したのが始まりと言われております。万治年間(1658~60年)紀州北牟婁郡の炭焼きであった大津市右衛門が改良したという説もあり、定かではありません。
備中屋長左衛門は紀州田辺藩城下町の炭問屋で、享保15年(1730年)から嘉永7年(安政元年にもあたる1854年)までの124年間に4人存在し、この炭問屋の取扱商品を備長炭と名付けたと言われ、現在の和歌山県田辺市の東、旧秋津川村付近の炭焼きさん達により改良されたものであると思われます。
紀州藩は紀州徳川家のほか新宮・田辺にも支藩がありましたが、高野山を除く紀伊国全域及び伊勢国南部が藩領でしたので、伊勢国松阪・田丸にも城が置かれておりました。
ですから「紀州備長炭」というのは和歌山県だけでなく現在の和歌山県全域と三重県南部が産地の「ウバメガシ」・「樫」による白炭のことを指します。
現在に至って備長炭は、紀州だけで作られているのではなく、技術移転により主な産地だけでも土佐(高知県)・豊後(大分県)・日向(宮崎県)などがあり、海外でも似た原木を使って作られていて、それぞれ「備長炭」として世に出されています。
知名度も上がり高級感があるので現在ではオガ炭の白炭にまで備長炭と名付けられたものが多く出回っています。
いわば「高級白炭」の名称として一般に使われているようです。
備長炭の特性
「紀州備長炭」や「上土佐備長炭」に用いられる原木ウバメガシ(馬目樫・姥目樫)は、通常の樫とは見た目も硬さも大きく異なります。厳しい土壌を好み、屈折しながらゆっくりとした成長をしますので非常に硬く、水にも沈むほど重い木です。
白炭にした場合、肌が金属的で滑らかになりますので、火がつき難く、素人ではなかなか熾こせませんが、一旦熾きれば火が長持ちします。
岩手木炭など良質の黒炭に比べて平時の火力は低いのですが、風を送り込むと火力を自在に上げることも出来るという高性能の炭です。
蒸しが入るため軟らかく非常にデリケートな江戸前の鰻でも、備長炭なら外はコンガリ、中はシットリしていながらしっかりと火を通し、お客が増えても炭の継ぎ足しが必要ありません。欲しいときに団扇一つで火力も上げられるということで大変重宝されてきました。
このように備長炭は普段使いの手軽な家庭用炭としては不向きで、火熾こしの難しさや爆跳といった危険性もありますので、選び方や使い方をよく確認して使用する必要があります。
また、「備長炭だからなんでも良い物」というのは誤った解釈で、それぞれのニーズあった炭を選ぶと良いでしょう。
良い炭の選び方については次に説明します。